第五夜
著者:shauna
再びの談話終え、次は紗綾の番。
その手に静かに蝋燭を持ち語り出す。
これは・・・私の叔母の話なんですけど・・・
叔母は中学生だった頃、体が弱くて、頻繁に貧血を起こしたんだそうです。
それで、検査の為に近くの総合病院に入院することになったんですが・・・
それで、入院の初日・・・
叔母は母親と一緒に病院に入って、病室を宛がわれて・・・その後、その日は母親とずっと話をしていたらしいのですが・・・当然病院なので、ずっと一緒に居る訳にも行かず、面会時間の終了時刻となる午後8時に
「じゃあ、私帰るからね。」
と言ったそうです。
「いやだよ。一人じゃさみしいし、怖いし、ずっと一緒に居てよ!!!」
入院なんて初めての経験だった叔母はそう愚図ったそうです。
すると母親は「本当にあんた・・・子供じゃないんだから・・・」
と困った表情をしました。
そんなやりとりをしていると、カーテンの衝立の向こうから、
クスクス・・・
笑い声が聞こえたそうです。
へ? と思ってそちらを見てみると、女の子がヒョコッと顔を出しました。
5歳ぐらいの可愛い女の子だったそうですけど、顔色はあまり良くなかったそうです。
まあ、病院なので当たり前なんですけどね・・・。
「あら、よかったじゃない。お姉ちゃんのことよろしくお願いしますね。」
母親がそう言うとその子は微笑んで「ハイ。」と言いました。
「まったく・・・お姉ちゃんは弱虫でしょう?」
その言葉にその子はニコッと笑ったそうです。
叔母自身も、こんな可愛い子が隣だったら嬉しいなと思ったそうです。
母親が帰って行ったあと、「ねぇ、何して遊ぶ?」と叔母が問いかけると、手にたくさんの折り紙を持ってきて、「一緒に折ろう。」と言われました。
叔母も折り紙には自信があったので、一緒になって折って遊んだそうです。
それで、聞いてみると、もう随分と長い間、病院に入院している子らしくて、後6回寝たら、「手術するの。」と言ったそうです。
その言葉に叔母も「大丈夫だよ。手術なんてあっという間に終わるから・・・」
と言って励ましました。
「がんばろうね。手術が終わったら、また一緒に遊んであげるからね。」
その日の会話はそこまでで、消灯時間が来たので、2人は「おやすみ。」と言って、眠ったそうです。
その後も、そんな風に一緒に遊ぶ日々が続いて、いよいよ手術の三日前ぐらい。
そのぐらいから段々と、その女の子の周りに人間が増えてきました。お医者さんや看護師さんはもちろんのこと、その女の子の親類なんかも集まってきたそうです。
叔母も流石におかしいと思ったらしいです。
なぜなら、簡単な手術だったら、こんなに人が集まってくるはずが無いから・・・
いよいよ、次の日が手術となった時、その日は親も親類もみんな集まって、ベッドを囲んでいたそうです。
叔母もその人達に挨拶をしたそうなんですが、やっぱりおかしい。これはもしかして大変な手術なのかもしれないと思ったらしいです。
もしかすると・・・と叔母も最悪の結末を考えたんだそうですけど、
「ああ・・・いけないいけない。そんな縁起の悪いことを考えるものじゃない。」
と自らの妄想を振り払って、
それで、隣の女の子に
「大丈夫だよ。私がお祈りしててあげるから・・・怖くないからね。」
と言うと、女の子も「うん。」と笑顔で頷いたそうです。
「ねぇ、お姉ちゃん。手術が終わったら、また一緒に折り紙やってくれる?」
「うん。いいよ。約束だからね。だから、がんばってくるんだよ。」
「うん。」
そんなやりとりがあって、次の日・・・
その女の子が手術に行ったんだそうです。
ポツンと一人残された叔母はやることもなく、上手くってるのかな・・・どうなのかな・・・と女の子の手術のことを心配してたそうです。
そのうち、昼が過ぎ、時間ばかりが経って行きます。
病室の中は相変わらず静まり返っています。
その内、叔母も疲れてきたらしくて、必然的にウトウトしてしまったらしいです。
でも、その内、叔母がフッと目をあけたそうです。
「まだ手術かな・・・」
そう思って叔母が隣のベッドを見てみると、ベッドの上に女の子は座っていました。
こちらに背を向けて、足をパタパタさせながら、女の子は一人で折り紙をしていました。
「あれ? もう終わったの? 」
叔母がそう問いかけると女の子はコクッと頷いたそうです。
そして、そのまま黙って、折り紙の髪を一枚こちらに渡したんだそうです。
「じゃあ、お姉ちゃんが何か折ってあげるね。がんばったね。偉かったね。」
と笑顔で言いながら・・・
フッとあることに気が付きました。
おかしいな・・・そんな大手術の後、すぐに病室に戻って来れるものなのかな・・・おまけに、あれほどたくさん来ていた親や親類たち・・・それが誰もいなかったんです。見れば女の子はいつも通りのパジャマを着て、普通に座っています。
手術の直後にこんなことできるのかな・・・
変だなと思いながら、その折り紙を折ろうと手を触れると・・・
ペタッ・・・
何故か手に色が付いたそうです。
それは赤い折り紙だったそうなんですが、手にベッタリと同じ色の液体が付くんです。
何で色が落ちるんだろう。そう考えながら折っているうちに、ついに手がベッタリと赤く染まってしまいました。
気持ち悪いな・・・何これ・・・
そう思いながら女の子の方を向くと、女の子は相変わらず、叔母に背を向けたまま、折り紙を折っていました。
変だな・・・
叔母は怖くなりました。
面会時間もまだ終わっていないし、太陽だって、まだ沈みきってはいない宵の入り。
大手術を終えたばかりの女の子がたった一人でこんな所に座っているなんてことがあるでしょうか。
「誰・・・?」
叔母がそう問いかけるも、返事はありません。
返事をしないわけがないのです。本当にその女の子だったのなら・・・
叔母はさらに怖くなり、
「あなた誰!!!!!」
大声でそう言うと、女の子が自分に背を向けている筈なのに、ニタッと笑ったのがわかったそうなんです。
嫌なことだけど、彼女に何かあったに違いない。
叔母はその時、死ぬほど怖かったそうなんですが、それでも声を振り絞って、
「帰りなさい!!!あなたはここに居てはいけない人なの!!!」
そう言うと、女の子はゆっくりとベッドを下りたそうです。
そして、そのまま、後ろ向きに歩いて、トットットットットと叔母のベッドに回り込んで・・・
クルッと叔母の方を向いた。
その顔は目が黄色く濁り、ゲッソリと痩せていたそうです。
そして、そのままこちらに寄ってきて・・・
「お姉ちゃんのウソツキ!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言った瞬間にスッと消えて無くなりました。
意識が遠のく中で、その子の足音が去って行くのが聞こえたそうです。
後で聞いた話によると・・・女の子は手術の最中に無くなったんだそうです。
でも、戻ってきたんですよ・・・
折り紙を折りに・・・
話を終え、紗綾はフッと蝋燭を吹き消した。
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